移民にまつわる話

最終更新日:2013.03.29

沖縄の新聞をめくると、他県では見られない特徴があります。それは、死亡広告欄が紙面を賑わしていることです。故人の氏名と屋号の記載にはじまり、喪主、子や孫、きょうだい、いとこ、果ては友人や区長まで名前を載せます。名士ともなると、職場や関係団体の弔文が長々と続きます。もう一つの特徴は、氏名にカタカナ名、いわゆる外国籍の親族が多く含まれていることです。その大半は国際結婚と移民に因ります。沖縄県は人口比で移民の数が最も多い地域です。親戚の内に海外移住者が含まれている例は決して珍しくありません。わたしもハワイやブラジルに親戚がいます。

「海外の移民社会は“古き良き沖縄”のすがたを色濃く遺している」という話をよく聞きます。先日、当館の学芸員が資料調査のためハワイに出張した際にも同様の体験をしました。現地で対応した県系2世・3世の皆さんが流暢なウチナーグチで話しかけてきたというのです。その学芸員は、自己のルーツを大切にする県系人のすがたにいたく感激したようですが、逆に片言のウチナーグチしか話せない自分が恥ずかしくなった、と感想を漏らしていました。

海外の移民社会は、今日の沖縄(人)を映し出す鏡の役割をしています。伝統文化が息づいている移民社会に比べると、今日の沖縄は文化変容が急激にすすみ憂慮すべき状況にあると思えてなりません。

近年では、3世・4世などの若い世代が、ルーツである沖縄の社会や文化に憧れや興味関心を抱き、留学や研修等の機会を利用して来県するケースが増えています。また、<世界のウチナーンチュ大会>が回を重ねるたびに、“ルーツを探す旅”に参加する県系人が増えていることも喜ばしい限りです。

一方、受け皿となる沖縄県でも、<ルーツ・ツーリズム>の観点から、拠点整備等を進めていく必要があります。しかし何より、県民自身が郷土の伝統文化の価値を認識し保存・継承に向けて積極的に取り組むことが今つよく望まれているのではないでしょうか。

余談になりますが、わたしの曾祖母は102歳でブラジルに移民しました。おそらく最高齢の移民例ではないかと思います。当時、このことが新聞に掲載されると大きな反響がありました。感嘆や賞賛よりも、高齢者を環境のまったく異なる地球の裏側へ移住させることへの批判の方が多かったと記憶しています。たしかに、無謀であり非常識な選択であったかもしれません。当時、曾祖母の身の回りのことは娘(祖母)たちが面倒を見ていましたが、晩年の曾祖母はブラジルに移住した息子のもとで最期を迎えたいという強い希望がありました。仏壇位牌がそこにあったことも理由のひとつです。祖先崇拝の観念が根づよい沖縄ならではのエピソードといえるでしょう。

移住の翌年、曾祖母は異郷の地で土へ還りました。

博物館班 班長 久場政彦

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